HERDAYS

【me and you】(後編) 身体への対処法も、居場所も。ちっちゃいお守りのようなものとして存在していることに助けられるのかもしれない。

Story 2023.11.15
(前編はこちら)

時間的な余白と、頭の中の余白を意識すると、自分の状態に気づきやすくなる

ー前半はお2人の“ペース”についてお話いただいたのですが、自分自身の心と頭、心と体のペースが違うタイミングはありますか?

竹中

わたしの場合は、心ではやりたいけど体が追いつかないということがこれまで多かったんです。それでも仕事はすごく好きだから、体が疲れなければ1日が26時間に増えたらいいのに、と思っていました。でも、体が先に疲れ始めているだけで、心も疲れているのに見て見ぬふりをしていたことに後から気づいて。

「体は大丈夫」「心は大丈夫」と思っていても、どちらかの調子が悪くなった後にどちらも大丈夫ではなかったことに気づかされることが多いので、結局、体と心がバラバラになることはないんだなというのは年々感じています。

ーその「調子が悪いかも」を気づいたタイミングで、何か対策はしていますか?

竹中

「今日はやたらと不安だな」という日は表情や話し方や動作に現れているみたいで、一緒に暮らしてきた母親や、いま住んでいるパートナーに言われて気づくことも多いです。まずは、調子が悪いことを自覚するのが大事だと思うので、その後はリストアップしているいくつかの対策のなかから、そのときの自分に合ったものをやっています。あとは、不安の原因と向き合う時間を持つために、一週間の中になるべく一日は何も予定がない日をつくるようにしています。

 野村

わたしは元々、仕事も趣味もやると決めたらずっとやっていたいしやってしまうタイプなんです。バランスをとるのがあまり得意ではなく、時間を目いっぱい使って色々やりたいという気持ちがあったのですが、体がついてこなくなって入院したこともありますし、心の調子を崩したこともあります。その経験を経て、小さな兆しを無視していると取り戻すのが大変だということに気付くようになりました。

調子を整える方法として今の自分に合っているなと感じているのは、時間的な余白と、頭の中の余白を意識することです。その二つは、メモに書いて目に見える場所に置いています。夢中になってのめり込んでいたら、気づけば呼吸が浅くなっていた、ということって結構あるんですよね。頭の中がいつもぎゅうぎゅうにつまっていると焦ってしまったりもして。なので、一呼吸置いたり、頭の中にできるだけ空間を残そうと意識することで、崩れにくくなってきたような気がします。あと、それを心がけていると、自分の状態に気づきやすくなると感じています。

今までのやり方によって自分たちにもたらされたものもたくさんあると感じていますが、これから生きていく上で、身体も年齢も変化していくし周りの環境や状況にもさまざまな予期せぬことが起こり得るなかで、同じやり方は続けられないと思いました。だから、会社をつくるときに暮らしにも時間を取れるようにしよう、という話はふたりで結構話しました。

怒らされているのは社会のせいかも

ーおふたりは、自分の感情の機微にすごく丁寧に向き合っていると感じます。その中でも特に「怒り」という感情に対してはどのように対処しているんでしょうか。

竹中

いろんな感情の中でも、怒りという感情は瞬発力が高いわりに隠したくもなるという、複雑な感情のように思います。怒りだけではなくて、悲しみなどネガティブな感情は、喜びのようなポジティブな感情と比べて、抑えたいと思うことが多いですよね。怒りや悲しみの感情が湧くなんて嘘なんじゃないか、そうしてはいけないんじゃないか、と思っていた時期もありました。怒りが湧いてるときに自分自身がどんどん悪い人間であるような気分になって、自分を責めてしまったり。怒りなのか悲しみなのか、今自分が抱えている感情が何なのか、混乱してしまうこともたまにあります。

もちろん、瞬発力高く怒っていい出来事は世の中にたくさん存在してると思うので、抑えなくてはいけない感情では決してないと思います。だけど、少し寝かすことで自分の奥底にある感情を発見したり、相手の発言を多角的に捉えられることもあると感じています。一旦保留ボックスに突っ込んで、一日経っても怒りの感情が変わらなかったら行動しよう、といったように時間をつくるのも一つの手段ですよね。

長い年月が経った後で、「自分を責める必要はなかったんだ」「むしろすごく傷つけられていて、本当は怒りの感情が湧いてよかったんだ」と気づくこともあります。その瞬間に湧いた感情が本当の感情ではなかった、ということもあるのかなと思います。

 野村

「怒る」という感情を紐解いていくと、個人的なことを超えて、社会のルールや風潮、社会通念のようなものが原因であることもありますよね。怒りについて考えることが、生きてる社会や環境を見つめることにもつながると思います。

「怒り」から人と話し始めることもできるというか、「me and you」も「こういうことが嫌だね」という話が盛り上がるんです。「じゃあどうして自分はそれに対して怒るんだろう?」ということから、「自分はこうしたい、こうありたいと思っているからだ」ということに気付けたりしますよね。そこから「今の社会のありようも、自分の感覚も、それだけが正解だろうか?」と考えるきっかけになったりもします。

強い感情だからこそ見えてくるものもたくさんあって。向き合いたくない感情ではありますが、向き合うことで見えてくるものがあると感じています。向き合うときに、内省することと同時に、「自分のせいだけじゃないかもしれない」と知っておくのも大切なことだと思います。わたしが怒らされているのは社会のせいかも、という目線を持っていると、怒りという感情は前に進んだり、ものごとが変化するためのエネルギーになる部分もある気がします。

ー確かに、怒りっていい意味で大きなエネルギーになることもありますよね。そして怒りも大切な感情であるということは、これまでに自分とちゃんと向き合ってきたからこそ分かるのでしょうか。

 野村

自分の中にたまってしまっている感情と向き合うための、専用のノートを持っています。そのノートは、思ったことを添削せずに書き連ねるために使っていて、書き出してみるだけで、気持ちが少し落ち着きます。きれいなところばかりじゃないし、恥ずかしい、見せられられない感情をわたし自身たくさんもっています。それをすべてそのまま人に言う必要はなくて、そういう自分もいるのだということを、書くことでわかっておくということが自分にとって大切なのかなと感じています。

他にも、意味をなさない言葉をひとりで口に出してみたりも。頭の中の考えをすぐに意味付けをしてしまいそうな自分を解放する方法としてそれらをやっています。わたしは「書く」「喋る」ことでそれを試しますが、他の人のいないところで「踊る」という人の話も聞いたことがあって、いいなと思います。

選択肢があるのは、安心感やお守りのような心の支えになる

ー怒りって、PMSが関係していることも少なくはないと思います。自分のせいじゃないと思えると楽になったりしますよね。お2人は、低用量ピルを服用された経験はありますか?

竹中

低用量ピルについて正しい知識を得て、取り入れようと思い始めたのは「She is」を始めた30歳になってからでした。20代前半で知っていたらもっと生活が変わっていたかもしれないと少し悔しく思います。以前、婦人科で処方してもらった低用量ピルがあんまり身体に合わなくて、生理痛やPMSについての悩みが減っていた時期だったのでやめてしまったんです。でも、ピルの種類も処方の方法も今はいっぱいありますよね。それこそオンラインでの処方もあるし、病院もいろいろあるから、この先またトライすることがあるかもしれません。

PMSには学生の頃からすごく悩んできたので、自分に合ってる病院を見つけたり、いつ頃からPMSが始まって不調になるのかカレンダーに入れたり、いろいろ試行錯誤してきました。

 野村

そうですね。PMSは数年前に万季ちゃんから教えてもらって、「自分が悩んでいた症状ってそういう言葉で表せるんだ」と知れたことで目から鱗だったことを覚えています。言葉があるということは、同じような状況の人が他にもいるということですし、対策もすでにあるのかもしれない、と気づいて安心しました。

「HERDAYS」のようなサービスが存在することで、低用量ピルという選択肢がいろいろな人にとって当たり前のものとして改めて認識が広がるのが本当に大事なことだなと思っています。わたし自身は低用量ピルの服用経験がないのですが、婦人科系の気になる症状もあるので、服用する選択肢も今後あり得るかなと思っています。選択肢があるのは、今を暮らしていくうえでの安心感や、お守りのような心の支えになりますよね。今すぐ取り入れることはもちろんだけど、いざとなったときに「これもあるかも、あれもあるかも」と選択肢があることがすごく大事だなと思うので、低用量ピルも視野に入れています。

ーそうですね。まさに「HERDAYS」としても、絶対に低用量ピルを服用してほしいと思っているわけではないんです。ただ、低用量ピルにもさまざまな種類がありますし、まずは選択肢の1つとして低用量ピルを試してみて、合わなければ違う選択肢を選んでもらえたら嬉しいです。

竹中

生理の症状は一辺倒に語られがちだけど、女性同士でも全然違いますよね。それなのに、「隠して平常な顔をして働くのが当たり前、みんな我慢してる」と言われたりするじゃないですか。例えば、症状が軽い人もいるし、重い人もいる。お腹の痛みが重い人もいれば、精神面の影響が大きい人もいる。さまざまである分、症状の重い人のつらさが気づかれにくいなと思っていて。程度が違うのに、一律して「生理は我慢してなんとか乗り越えなきゃいけないもの」になっているのはおかしいなと思います。人と人とで思いやったり、知識を得たり、制度をつくっていくなども大事ですし、同時に生理のつらさに対する対処法を複数つくっていくことや、その選択肢にアクセスしやすくすることもすごく大事なことだなって思います。

 野村

生理の重さの違いもありますし、以前と比べてライフスタイルもより多様になっているのではないかと思います。そういう意味でも、一つの方法だけでは合わないという人もたくさんいると想像します。個人の暮らしも社会のありようも変わっていくなかで、たった一つの方法しか存在しない社会ではなく、複数の選択肢に手をのばせる状況を整えられている社会のほうが生きやすいと思っています。

ー今おっしゃってくださったお守りみたいなものが、まさに「me and you」がそういう場所だと思います。


(前編はこちら)


竹中万季(たけなか・まき)
編集者/プロデューサー。1988年生まれ。2015年CINRA入社。企業や行政とのメディアやイベントの立ち上げなどさまざまな案件に携わり、施策全体のプロデュース、企画、ディレクション、編集など幅広く担当。2017年に野村由芽と共に、1人1人の声を肯定する場所「自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティ『She is』」を立ち上げ、ブランドリーダーを務める。2021年4月にCINRAを退職し、同月、野村由芽と共に「me and you, inc.(ミーアンドユー)」を立ち上げ、代表取締役に就任。主な仕事領域はプロデュース、ディレクション、企画、編集。社会に存在する課題を見据えながらも、個人の小さな声を大切にしながら、 それぞれの人の温度や思いを伝えていく仕事を心掛けている。
X(旧Twitter):@l_u_l_u

野村由芽(のむら・ゆめ)
編集者/文章を書く。1986年生まれ。2012年CINRA入社。 カルチャーメディアCINRA.NETの編集、企画、営業を行い、アジアのクリエイティブシティガイドHereNowの東京キュレーターを担う。 さまざまな企業のオウンドメディアの立ち上げにも携わり、コンセプトやストーリー立案、コピーライティングを主に担当。2017年に竹中万季と共に、ひとりひとりの声を肯定する場所「自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティ『She is』」を立ち上げ、編集長を務める。2021年4月にCINRAを退職し、同月、竹中万季と共に「me and you, inc.(ミーアンドユー)」を立ち上げ、取締役に就任。主な仕事領域はインタビュー、コラム・エッセイ執筆、コピーライティング、司会。遠くと近くを行き来しながら、相手の言葉に耳を傾け、対話をしながらひと時その人の風景に潜ったり、一緒につくっていくような編集視点を心掛けている。
X(旧Twitter):@ymue




※1 She is:自分らしく生きる女性を祝福する参加型のライフ&カルチャーコミュニティ。

※2 me and you:個人と個人の対話を出発点に、遠くの誰かにまで想像や語りを広げるための拠点として、当たり前とされているものを問い直す編集視点を軸に、メディア・コミュニティ「me and you little magazine & club」の運営や、社会が抱える課題について企業や団体とともに考えるプロジェクトに取り組む会社。https://meandyou.co.jp

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