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「性教育って大事」という当たり前を、もっと当たり前に。【性教育YouTuber】シオリーヌさんが考える、SRHRの現在地。

Think 2023.5.30

概要

今回お話を伺ったのは、総合病院産婦人科で助産師としての勤務を経て、現在は学校での性教育に関する講演やイベント等の講師として活躍するシオリーヌ(大貫 詩織)さん。さまざまなコンテンツを通して「性」についての発信を続けるシオリーヌさんに、日本における「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)」を取り巻く課題と、そこに向き合っていくためのヒントをお話いただきました。

まだまだ足りない日本のSRHRに関する意識。
仕組みづくりと教育の必要性。

——日本のSRHRの現状をシオリーヌさんはどう見られていますか?

まだまだSRHRが尊重されているとは言えない現状だなと思っています。例えば、女性が妊娠や出産をするタイミングを自分の希望だけで決めるのは難しい場合が多いですよね。職場の同僚と時期が重なることを気にしたり、キャリアとの両立について悩んだり……という状況はイメージしやすいと思います。

——ルールが追いついていないことが原因となっている場合も多いですよね。

意志決定の権利がある人たちにジェンダー役割分業の意識が染みついていることで、さまざまなルールにもそれが反映されている状況があると思います。既存のさまざまなシステムは男性は外で仕事をして、女性は家で子育てや家族のケアを担う役割である、という認識のもとでつくられているものが多い。

さらに問題なのは既存のシステムに反して、今は共働きでないと生活することができない社会になっているということです。実際にデータを見ても、令和2年時点で共働き世帯の割合は68%にものぼります。

“社会の状況”は変わっているのに「育児は女性が担うものだ」という“意識”だけは変わっていない。「育児をメインで担いながら、男性並みに働かなくてはならない」という状況にある女性がたくさんいる。そういう状況を、意志決定する立場の方たちにもっと理解してもらわなくてはならないのだと感じます。

——無意識に醸成されたジェンダーロールが、いまのシステムにも大きな影響を及ぼしている。

SRHRに関していえば、性教育の問題も重要です。自分の性と生殖に関することを自分で決めていくためには正しい知識が必要になります。意思決定するために必要な性の知識を学ぶうえで性教育は重要ですが、現代の義務教育は当たり前に知識を得られる状況ではありません。たとえば、低用量ピルやコンドームなどの具体的な避妊法に関する情報にもアクセスしづらい。先に述べたジェンダーの問題や、性教育の問題も含め、SRHRに関連するさまざまなトピックに課題があると考えています。

指導はしないけど、責任は問う。
性に関する教育に立ちはだかる障壁。

——義務教育の性教育は不十分とのことですが、具体的にどういったところに問題があるのでしょうか。

最も大きな問題であろうことは、文部科学省が定めている学習指導要領(*1)についてです。なかでも問題なのは、いわゆる「はどめ規定」の存在です。たとえば中学1年の保健体育では、受精や妊娠について扱うことになっていますが、「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という規定が設けられています。「妊娠の経過」とは受精にいたるプロセス、つまり性行為のことです。妊娠にいたる具体的なプロセスを学んでいない子どもたちが、避妊の方法など具体的な情報を理解するのは難しいと感じます。

さらに現状、日本の刑法で定められている性交同意年齢(*2)は13歳。性行為について、具体的な教育はおこなわないけど責任は問う、というかなり矛盾した状況が生まれてしまっています。「はどめ規定」をめぐる問題は、長年問題視されていますが、撤廃される見込みはないのが現状です。

——根幹にこのような問題があるとは知りませんでした。

はどめ規定によって性教育を届けづらい状況があることは事実ですが、学習指導要領は「最低限この内容を扱いましょう」という基準に過ぎません。「生徒たちに性教育を伝える必要がある」と思えば、先生の裁量で教材を準備して伝えることができます。実際に、そういった取り組みをおこなってくださる先生はたくさんいらっしゃって、とても心強く思っています。

ただ、それでは子どもたちによって得られる性の知識に差が生まれてしまいますよね。たまたま熱心な先生がいてくれたら情報を得られるけれど、いてくれなかったら学ぶ機会がないまま卒業していくことになる。だからやっぱり、学習指導要領が見直されることが重要だと感じます。性教育について考えていると、いつも最終的に「選挙に行こう!」という話になっちゃうんですよね(笑)

性教育を広げようと頑張っていても、あまりに大きすぎる壁を感じて絶望しそうになることもあります。それでも、声を上げ続ける人たちで一丸となって、子どもたちが当たり前に性教育にアクセスできる社会を目指して行動し続けるしかありません。

真面目すぎず、下ネタでもない、
性教育に気軽に触れられるコンテンツを。

——1年前にはご自身のYouTubeチャンネルで『ユースクリニックへようこそ』という連続ドラマを公開していらっしゃいました。ドラマでの表現に至った理由は何かあったのですか?

私自身、エンタメが大好きで、実は過去にバンドを組んでいたり、ゴスペルやっていたり、お笑い芸人をやっていたこともあったり……。エンタメの力を通して「ストーリー自体が面白いから見ているけど、いつの間にか大事なことを学んでいた」という、体験を届けてみたいと思ったんです。

ドラマの他にも、MVを作ってみたり、本を書いてみたりとさまざまな表現に挑戦しています。人によって良いと思ってもらえる表現は異なるので、いろんな形で性教育に出会ってもらえる機会を作れたらいいなと思っています。

——性教育の内容って「下ネタ」や「エロ」の文脈で捉えられることもありそうですが、そうならないためにコンテンツづくりの際どのようなことを意識されていますか?

YouTubeを始めたころは「女性が顔出しで”そんな話”してすごいね」と、物珍しさを示すコメントが多くありました。でも、私にとって性の話をすることは特別なことではないんですよね。産婦人科で働いていたころから、普通に大切な話として性の話をしてきたので。性の話を”神聖な話”として扱う場面もよく目にしますが、私としてはもっと日常的なものだと思っています。『ユースクリニックへようこそ』も、「私たちの日常の話」として描きたいという想いがありました。

——シオリーヌさんのスタンスがコンテンツにも滲み出ているんですね。脚本でこだわった部分はありますか?

私の思いを全部代弁してもらおう!と考えていた助産師役のセリフは、特に時間をかけて脚本家さんと相談しました。大人から子どもに押し付けるような”説教”にしたくないという気持ちが明確にあったので、あくまでも「子どもと一緒に考えている」姿勢を大切にしました。

——助産師さんの「あなたの身体はあなたのものだよ」というセリフが印象的でした。

本来は当たり前に尊重されるはずの「自分の身体は自分のもの」という権利を、現代社会では感じにくいように思います。妊娠や出産に関して自分の希望のタイミングがあったけど、会社の都合で断念せざるを得なかった方。子どもを持つことを望んでいないのに出産を急かされるような言葉を受けた方。そういった経験を繰り返していくと、本来持っている自分の権利を忘れさせられてしまうんですよね。

でも、それは当人の責任ではなくて、社会の構造に問題があるのだと考えています。だから「当人が何かを頑張る」というよりは、すべての人が他人の決定や、他人の身体、人生のことについてとやかく言う権利はない、ということを改めて学び直すことが重要だと考えています。

CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識/シオリーヌ(大貫詩織) 著

「一般的な知識とプライベートな情報を分ける」
性に関するコミュニケーションで大切なこと

——ドラマでもパートナー同士のすれ違いを描いたエピソードがありました。コミュニケーションに関する悩みはよく届きますか?

性について話すことにハードルを感じている方は多くいらっしゃいますね。例えば、「彼女が今生理中なんだけどどうしたらいいですか?」と質問をいただくことがあります。簡潔にいえば「本人に聞くのが1番」という回答になってしまうのですが、パートナーにどう聞いていいか分からないという方は多いんだろうなと思います。

他にも、管理職の方から「生理中でも働きやすい職場を作るためにヒアリングしたいんですが、生理について社員へ質問することはセクハラになりますか?」という質問が届いたこともあります。

——なんとお答えしたんですか?

まず「セクハラにならないかな?」と一度立ち止まって考えることは、素晴らしいことだと思います。そのうえで、「生理についての一般的な知識のお話と、社員さんのプライベートな情報についてのお話は、切り分けて考えるとよいと思います」とお話しましたね。

「生理周期はどれくらい?」など、個人的な事情について聞かれることが嫌だと感じる方は当然いらっしゃいます。そこで、例えば「生理のときって職場でどんな困りごとがあると思う?」とか、「職場でこんな制度があったらいいなとか思うことある?」とか、生理という現象全体についての質問にすることで、目の前の人に嫌な思いをさせてしまう可能性は低くなるのではないか、ということをお伝えしました。もちろん質問の目的を明確にしたうえでですけどね。

あとは、「もし嫌だったら断ってもらって大丈夫なんだけど、生理のことについて少し聞いてもいい?」と、はじめに尋ねることは、誰でもできる工夫だと思います。

——性に関する話だとしても、基本となるのは相手を思いやるコミュニケーションですよね。一般的な知識についての話と、プライベートな話を分ける、というのは分かりやすい基準です。

親から子への性教育でも同じことが言えると思います。「子どもにちゃんと性教育をしたいと思うけど、自分の性の体験を話すことに抵抗があります」とか、「子どもからセックスについて具体的なことを聞かれたら、なんて答えたらいいのかわからない」という悩みを持つ親御さんもいらっしゃいますが、話したくないことは話さなくていい。一般的な人体の仕組みを伝えることと、親御さんのプライバシーを開示することってまったく別の話だと感じます。そのようにお伝えすると、ホッとされる方が多いですね。

ピル・オンライン診療を
適切に利用していくスキルを

——「HERDAYS」のようなピルのオンライン診療サービスについては、どう捉えていらっしゃいますか?

まず、ピルの話はだいぶしやすい世の中になりましたよね。ピルを選択肢として取り入れる人も増えたように感じます。ただ、ピルが身近になりつつある状況だからこそ、オンライン診療を適切に利用するスキルを身につける必要があると思っていて。

具体的には、オンライン診療と、リアルのクリニックでの診療を適切に使い分けるスキルです。私自身、いまは授乳中でピルを服用しない選択をしていますが、PMSがかなりひどいので、卒乳したらすぐに再開したいと思っています。とはいえ、子育てしながら毎月婦人科に行くのは難しいので、内服後の体調が落ち着いてきたらオンライン診療を併用することも考えています。

——オンライン診療サービスに期待することはありますか?

「ユーザーに対して誠実である」という点はサービスを提供する側に期待したいことですね。ただピルが売れればいいというのではなく、ユーザーの健康を真剣に考えるようなサービスであってほしいと感じています。例えば、「子宮頸がん検診を受けましょう」と情報を届けたり、必要なときにはリアルな医療機関への受診をきちんと勧めたり、できることはたくさんあるように思います。

これはユーザー側も持っておきたい視点です。見極める責任がユーザー側に発生するのは問題だなと思いつつ、サービスによって価値観が異なるのは事実だと思うので、しっかりと比較して選ぶ必要があることを知っていただきたいです。


HERDAYSのオンライン診療では、対面診療にできる限り近い環境を提供できるよう丁寧なビデオ診療を心がけており、問診や診療結果によってピルの服用が望ましくないと判断させていただいた場合は、処方をお断りしております。

「性教育って大事ですよね」という話が
当たり前に伝わる世の中に。

——今年の春から大学院に通い始めたとお伺いしました。どのようなお考えがあるのですか?

入学を決めたきっかけは、性教育を伝えたいと思っている助産師に対して、スキルをシェアできるような人材になりたいと思ったことです。発信活動を始めてからの数年間「自分がやってみたいこと」を軸に、とにかく実践を重ねてきました。いろいろな挑戦をして、もちろん良かったことも多いけれど、私が一人で実践を積み重ねているだけでは不十分だということを最近感じていて。大学院で、これから性教育を伝えたいと思う助産師さんたちに、スキルを体系的にシェアできるようなノウハウを学びたいと思いました。

最近は性教育に関する発信をする方も増えていますが、若者が信頼できる素晴らしい情報を発信してる方もいれば、そうでない方もいます。情報が溢れるいま「若い年代の方々が安心して頼れるような大人であるために、どういうスキルが必要なんだろう」ということをしっかり考え、他の専門職にも伝えられるような存在になりたいと思っています。

——性教育を取り巻く環境も変わってきているんですね。

ここ数年で「性教育って大事ですよね」という話が、当たり前に伝わる世の中になってきたなと感じています。ファッション誌や、朝の情報番組でも性教育特集が組まれるようになったことは、大きな時代の変化だなと思います。

私たち大人の世代も、十分な性教育を受けられてきていないんです。子どもたちはもちろん、すべての人の「自分の身体のことは自分で決めていい」という当たり前の権利が、当たり前に尊重される社会を作っていきたいと思っています。



(*1)文科省が小中高それぞれの段階で指導する大まかな内容を定めたカリキュラム。
(*2)性行為の同意が判断できるとみなされる年齢。今後16歳に引き上げられる見込み。


シオリーヌ(大貫詩織) 助産師/性教育YouTuber 株式会社Rine代表取締役
総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベント等の講師を務める。 YouTubeチャンネルでは、性の知識を気軽に学べる動画を配信中。


聞き手・書き手: たけもこ
撮影: 高橋慶基

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