概要
今回お話を伺ったのは、宝塚歌劇団を退団し女優デビュー21周年を迎えた紫吹淳さん。幅広いジャンルにおいて第一線で活躍を続ける原動力や、晴れやかに人生を生きるためのヒントとは。
長く活躍を続けるための秘訣は、探求心と誇りをもつこと。
――宝塚歌劇団に18年間在籍、男役のトップスターとして活躍され、現在は女優としても大活躍されています。
順調にキャリアを積み重ねてこられておりますが、その秘訣はどんなところにあるのでしょうか?
芸術には満点はないと常に思っております。自分が満足しちゃったらそこで終わっちゃうと思うので、常にもっと何かできるんじゃないか、というのを日々心がけています。一つの役であったり、一つの場面であったりをいただいたときにはそのような気持ちで取り組んでいます。公演中だったら千秋楽、最後の日を迎えるまでちょっとでも。昨日より今日、今日より明日、よりよく見せれるものを。自分の現状に満足しないってことかな。
――昨日の自分を超えるために、具体的にどのようなことをされるのでしょうか?
常に探求心ですよね。よりよく見せるとはどういうことかな、と考えてとりあえずトライする。やってみて違ったらまた方向変える、みたいな。動かないと何もはじまらないので。常にそんな感じです。
――HERDAYSは女性が自分の人生を当たり前に生きることの大切さや選択肢を持つことの重要性を啓蒙していく活動をしているのですが、紫吹さんの”選択肢”についてお聞かせください。宝塚歌劇団を退団されたあと、女優以外の選択肢を考えたことはありますか?
それが、宝塚に入るときからすで敷かれたレールにポンポンポンとのっていっちゃった感がありまして。退団するときも「女優になりたい」という思いよりも次のレールにポンってのれたっていうだけの話。私はすごく運がいいんだな、というのは思ってます。運だけで生きてるなって。
ただ、運も、自分次第でどうにでもなると思うんです。例えば右の扉と左の扉があって、右を選んだらこういう道だったけど、左を選んだらこういう道、どの選択肢を選ぶかは常に自分にあると思います。いくら敷かれたレールがあったとしても、女優をやりたくないって思ったらその道は進まなかったと思うし。運命は、運ぶ命と書きますけど、自分次第でどうにでもなるなってすごく思います。
写真:Jun Shibuki Official Instagram
――敷かれたレールはあったけれど、自分で覚悟を持って選択し、歩んできたから後悔はない、という心境でしょうか。
基本、過去を振り返らないタイプなので。時間がもったいないじゃない。振り返って何かを変えることができるんだったらいくらでも振り返りますけど、もうどうにもならない。そうであれば、もうポジティブに、その時間を無駄にしないで違うことに使ったほうがいい。
――前向きですね!
宝塚時代も困難にぶつかったことはもちろんあります。でもそんなときも、落ちるとこまで落ちたらあがるしかないので、落ちるとこまで落ちます。自分で”間”にいる時間を短くしますね。間でなんか、ウジウジしている時間が長ければ長いほどもったいない、落ちたらもうあがるしかないから(笑)。もう落としちゃう、自分を。自分を追い込むっていうかね。
――潔いといいますか、やはり男役のトップスターでいらした方ならではの価値観といいますか。
そうですね、やっぱり宝塚でかなり鍛えられましたね。私は宝塚がどういうものかわからず、バレエのコンクールみたいな感覚で受験したら運よく受かり、そのまま入らせてもらって。15歳というと子供ですよね。17歳で初舞台を踏んだ当時はチケットが一番高くて3,800円くらいだったんですよ。先生に3,800円分の踊りをしているのか、ただのお遊戯じゃなくお金をとれるレベルなのか、というようなことを17歳から教育されましたので責任感やプロ意識みたいなものは宝塚で身につけさせてもらえました。みんな入りたくて入りたくて、すごい倍率で入って。自分が入ったために落ちている人もいる。選ばれて入っているということにプライドや誇りを持つということは、親にも言われましたね。そんな感じでどんどん強くなっていったのかも(笑)。
――そのような経験から培った価値観が、今の紫吹さんの活躍も支えているのですね。
そうですね、逆に宝塚ほどしんどいものはない。退団して20年になりますけど、青春の一番いい若かりし頃に厳しい訓練だったり日々を過ごしてきたおかげで、それはタカラジェンヌみんなが言うと思います。宝塚ほど、ましてトップという立場、本当に私の人生を振り返ってもあの時代が一番、ね。
生理のようなコントロールできない不調は、コミュニケーションが大事。
写真:Jun Shibuki Official Instagram
――紫吹さんはチャリティー活動にも積極的で、2021年にはケニアの子供達の学校教育や女性支援をサポートするためにオークションを開催されましたね。
世の中には、大変な思いをしている人たちがいるというときに、微力ながらお手伝いできないかなと思って。
――ケニアでは、多くの女子生徒が生理用品を購入できず、生理期間中は学校に行くことがかなわず授業に遅れをとってしまうことが大きな問題となっているとか。生理による女性の労働損失や社会的機会の損失は日本でも課題感が強く、一般企業で女性の生理課題に対する取り組みが広まりつつあります。紫吹さんご自身は女性特有の健康課題で悩んだ経験はありますか?
私はそれほど重くはなかったけど、周りでは救急車で運ばれちゃうくらいひどい症状に苦しんでいる子がいましたね。周期独特の不機嫌さっていうのはどうにもコントロールできないじゃないですか。普段は我慢できることがまったく我慢できなかったり。私は前もって”そういう周期なので嫌な人間になるかも”ということを周囲の人に伝えていました。ごめんねって。そうすると結構平和に過ごすことができたから、それはひとつの手かなとは思いますね。
――コミュニケーションですね。自分ではコントロールできない身体の不調は舞台でのパフォーマンスにも影響しますよね。
宝塚も今は違うかもしれないけど、1ヶ月半という長い舞台の期間があるので全員が全員まわってくるんですよね。そこから逃れることはできないので、それもまた強くなる。症状がつらかったら学校を休むことが今はできますけど、休むなんて人にチャンスを与えるようなことだから痛みは我慢する、出血がひどかろうがやる、何事もやりきる、という。それがいいのか悪いのかは今の時代的に難しいところではありますけど、私の時代はそうでしたね。
――今も生理のつらさを我慢する人はまだまだ大勢いますが、我慢しなくていいものだという価値観が少しずつ広まりつつありますね。
そうですね。でもエンターテイメントの世界では、よりよいものを作るためにまだまだ難しい部分はありますね。エンターテイメントはお金をいただいてお見せすることなので、普通の人ができない我慢とかもちょっとはしないといけないのかなとは思いますね、時代は変われど。それがエンターテイメントなのかなと私は思います。
――厳しいエンターテイメントの世界、一流のプロの世界ですね。紫吹さんはご自身の体調管理、健康課題への対策など、どんなところに気をつけていらっしゃいますか?
月並みですけど、バランスのいい食事と睡眠ですね。風邪をひいてもできなくはないですけど、自分が納得いくパフォーマンスができなくなる。鼻がつまったりとかね、花粉でもそうですけど。公演中はそうならない状況を作り、自分の身体を守ります。公演が終わったら、ちょっとゆるやかにして。それも結局、自分次第だと思います。私は100%万全な体制で臨みたいなと思うので、普段はもちろん、公演中やライブ中は特に食べ物、口にいれるもの、睡眠はじめすべてに気をつけますね。
自分自身を決めつけずに、まずはチャレンジしてみよう。
写真:Jun Shibuki Official Instagram
――これからの世代、若い女性たちに向けて後悔しない人生を歩むためのメッセージをお願いします。
やっぱり自分次第ってことしかない。頑張るのも自分、頑張らないのも自分。頑張ったらその分結果はついてくるし、頑張らなくてもそれなりの生活だと思うんですよ。それをチョイスするのは時代じゃないし、自分次第。持って生まれた運もあるかもだけど、自分次第でどんどん変わるんだよ、自分次第なのでどんどん動いていってほしいなと思います。
――昨日の自分を超えるために、今日の自分に何ができるかというところと向き合っていくことでしょうか。
昨日の自分を超えなくていいと思う人は、それでいいと思う。
――それもまた人生ですよね。
そう、それもその人の人生。選択、すべて人生は選択。
――潔い、さすがです。
男なんですかね、考え方が。どうなんでしょう。
――合理的で私は好きです。
私自身がやったことに対して、これだけ努力しました、”5”努力しました、なら”5”返ってこないと嫌なんですよ。でも”5”返ってくることもほぼないじゃないですか。
――めげそうになりますよね。
なります。でもやっぱり強いのかもしれないですよね、ちょっと鍛えられてるのかもしれないです。負けず嫌いなところもあります。なんで同じ人間なのに、この人にはできて私にはできないのって。私にできないのは努力が足りないんだわ、って思うタイプです。
――うらやましいと思うのではなく。
そう。できないはずはないと思う。できないのは努力が足りないからだと思う。
――今後も舞台中心に活動されていきたいですか?
いや、なんでも屋のようにドラマもバラエティも映画も舞台もライブもやっているので、くくりはないです。私が私である以上は、私はここの人、とか私自身も決めたくないかな。お話いただければなんでもやります的なスタンスで。
――なるほど、それで取材も受けていただけたんですね、ありがとうございます(笑)。
ありがとうございます(笑)。
――とりあえずやってみるっていう。
そうですね、それも選択肢のひとつなので。結局、バラエティも最初は抵抗があったけどやったことで広がって今があるので。動かないのはもったいないですね。そういう作品にもたまたま出会ったことはあったんです。朗読だったんですが、ちょっと休みたいなと思っていた時期にいただいた朗読の題材が、前にも進めないし過去に戻れるわけでもない、右にも行きたくないし左にもいきたくない、立ち止まった所に悪魔がささやくみたいなお話だったんです。まさに立ち止まろうとしていたときに、なぜこのタイミングにこの仕事がくるんだというのはあったけど、そのときに進んだから今がある。でもその時は無性に止まりたかったです。でもそういった
意味でもタイミング、タイミングが私は恵まれているんじゃないかなと思います。
――昨年ドラマ初主演を果たされ、ますます活躍が広がっていくステージにいらっしゃいますが、これから叶えたいことや挑戦したいことはありますか?
こうなりたいとか、これがやりたいとか、あまりないんですよ。運だけで、運に恵まれて、ほんとにラッキーな人なんだと思うんですけど。ドラマの主演もやるなんて思ってもみなかったし。でもお話いただいてすべてが運に恵まれて。いつも言っていることなのですが、応援くださっているみなさんと老いる喜びに勝るものはないと思っていて。応援してくださっている人がいる以上は頑張っていきたいなと思っています。
紫吹 淳
宝塚歌劇団出身。数々の作品で主役を務め2001年月組のトップに就任。2004年3月宝塚歌劇団を退団、女優としてデビュー。現在は舞台・ドラマ・バラエティー番組に出演の他 LIVE活動・CMなど幅広く活躍中。2024年5月、ミュージカル「クラスアクト」に出演。東京サンシャイン劇場をスタートし全国15都道府県にて公演が行われる。
Instagram:
@jun_shibuki_official
聞き手:佐藤明子